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あんしんへはぐれる

歴史に残らず消えていく僕の詩がよめる唯一の場所

離反

こうして今日 突然
日差しが強くなったことは
この暑さとの関係もなければ
物の陰影が こんなに物々しく
濃くなっているはずはなかった

(ここしばらく視ることのできない僕は
 ものの濡れた表面が日光を液状化させて含む
 あるいは一斉に僕を見つめるような
 眩しい視線と感じる)

幻想世界が無意識の外側で
秘密裏に構成されていた
水のような自身への離反に
突如突き当たったと感じるこんな孤独感は
僕がひとりきりであることとは
とても関係の繋げない満足感を
現存性へ導入する

  日傘をさした若い母親は
  娘とも息子ともつかない
  娘を脇に置いて
  立ち止まる
  僕をものとして視ていればこそ
  そうして二人
  とつぜん小さな畑の脇に佇み
  母が娘の顔を
  手で扇いでみることだって

僕の内的構成のもっとも大きなものに 
照らされるように
あるいは反抗までされるために
今日の仕事は 稀有の 昼すぎに終わり
帰ってきた道ではなかった

それでも僕の可塑性が
まるで一定の反発性を持ったもののように
昨日より よく眠ることを 考えて帰る道に
青白い肺の 大きく広がる 一呼吸を持つことは

明日

言わねばならない時がある

そのとき言わねばならないけれど

言わねばならない言葉はどれも

言ってはならない言葉である

 

  愛しているよと

  言ってはならない

  愛せないだけ

  響いてしまうから

 

  ではさよならと

  言ってはならない

  帰りつけないことが

  聞こえてしまうから

  

それでもそのとき

言わねばならない

言ってはならない

それらの言葉を

 

いうことを状況が強いるから

状況が彼に強いるから

そうして彼は死んでしまう

彼が明日へ死んでいく

君も僕も

君も僕も
一生懸命生きませんように
能力なしで暮らしていくことに
不満も不安もありませんように

なんの努力をしなくても
僕らの誠意がありえますように
なんのポーズをとらずとも
僕らが本気でありえますように

自分のこともわからないまま
人にすがろうとしませんように
人がわからないと嘆きませんように
人に成り代わろうとしませんように

自信がないからといって
作り出したものを誇りませんように
僕らの自信が外面からは
無根拠な自信と映りますように

名前を残そうと思いませんように
歴史に加わろうと思いませんように
生まれてきたことの重さを持てますように
自らの歴史に還れますように

美しいものに憧れませんように
美しいものに酔いませんように
美しいものを妬みませんように
美しいものを分かりますように

一生懸命生きませんように
自分を恥じたりしませんように
おどけることを恐れませんように
一人で生きようと思いませんように

倦怠

グラスに水を注いだように
勢い良く風が吹いてくる
世界中の紙幣を一斉に陽に晒したように
顔をなくした風が歩いて僕の頬をなでる

  君は本当に新宿駅前を知っているか
  人間がやってきたことは何か分かっているか
  空は蜜蝋のように今日の範囲を限定している
  街は言葉の量で建築の量を正当化する
  
  倦怠と呼ぶのは傲慢だった
  僕らの熱意が僕らを圧している
  一人でいるときにも同調圧力は吹く
  歩いていると腹の底から熱い風が込み上がる
  
    君は本当に人間がやってきたことを知っているか
    人間がやっていることを何かわかっているか
    世界とは何か理解しているか
    君の欲望を把握しているか
  
    ああ僕は
   なんでも訪ねてほしかった
  道でもいいし
 知識でもいい
こんなに広い街の中で
僕ならば一緒に迷うから

  価値というのは嘘だ
  あれよりこれがいいというのは嘘だ
  暑かったり寒かったりして
  それが嫌悪されることはある

    しかし価値というのは
    好悪とは関係がない
    好きだ嫌いだということは
    価値があるとかないのとは違う

      暖かいカフェテラスを
      君の手のひらを
      ああ札束を
      欲する僕が
     (それでもこれは価値とは違う)

    価値というのは虚しいものだ
    それはないことがあるものなんだ
    店先のようには存在しない
    人体のようにはありえない

ああ君
これを確かなことだと認めてくれ
価値の幻想の込み上がる渦に
人の弱さが虐げられる
身体のうちから虐げられる

窓辺

座っているだけの
カフェテラスの窓辺
ぼくはいつだって
平和でいたかった

窓の桟に小さな
ハエトリグモが一匹
アルミ製の桟は
彼の橋ではなく

登ろうとして
滑り落ちる
掴まろうとして
ひっくり返る

(むやみに満足でなければ
 もう満足はありえない)

窓の桟に大きな
ハエトリグモが一匹
見つめていることの無邪気さが
ハエトリグモを大きくする

  このクモの生き死には
  僕の生き死にと同じ

このクモの生命は
僕の生命と同じくらい重い
明日を信じてしまいそうになる
僕らの生命は
重たいのか軽いのか

現代倫理

 

   Ⅰ

ぼくはニュースサイトを見る
大多数の意見をみる
その大多数の意見をひっくり返して
ぼくの考えにするのだ
だからぼくの考えはいつでも
単純な反応に左右されている
だけどぼくの考えはいつでも
ほとんど的を射ている

   Ⅱ

僕がそれを綺麗事と呼ぶのは
それが徹底していないからだ
徹底すると思想になる
意見は裏返せるが
思想は裏返らない

   Ⅲ

自分で自分を愛せたならば
人が自分を愛さなくても構わないだろう
愛とは顔を見つめてもらうことだ
自分の顔を見つめられないから

   Ⅳ

僕はファミチキを食べ
コカコーラを飲み
冷房の効いた部屋で
一日中ゲームをしていれば
幸せな生活だと思うだろう
そうやって僕は暮らしてきたから

   Ⅴ

僕にある最も下劣なところ
僕にある最も高級なところ
そしてその間にある無階層の段階

それらをひとまとめにする方法を探している
どちらが上でも下でもなくなるような見方を

   Ⅵ

人はイメージで関係するが
イメージで暮らしているわけではない
だから関係しようとすると
イメージと現実とに隔たりがある
それを無理に埋めようとするから
関係することは辛い

   Ⅴ

新聞紙を敷いて眠るホームレスは
大学教授よりも下劣である
わざわざそう言うことができるだろうか

   Ⅳ

僕にとっての僕の下劣さ
僕にとっての僕の高級さ
それはどちらもイメージである

関係する意識がもしなくなれば
下劣さも高級さも無に帰すものに違いない

   Ⅲ

僕は満足できないだろう
他人は満足しないから

   Ⅱ

もし徹底さえしているならば
肯定せざるをえないだろう
意見は撤回しえるにしても
思想がなくなることはない

   Ⅰ

少数者が少数者であるのは
そうならざるをえないからだ
必然性が追いやったのだ
だから僕なら少数者へつく

勤勉

秋刀魚のお腹に箸を押し当てる
お祭りの夜に塗られた銀色が
硬い箸に響いて
現実の硬さに屈してしまう

怠惰なふたりは座っている
ああ とでも おお とでも
言おうと思えば言えたから
けして無能だったわけではない
  
    言おうと思えば言えたのに
    それが ふしぎに難しかった 

  感じられたと
  感じられてきたものが
  何でもなかったような気がして

ただ言うことがそれだけで
くらいことのように思われた

 (秋刀魚の腹の柔らかさ
  多く蓄えていた証)

    どんな画家なら絵を描けただろう
    どう描けば関係を描けるだろう

    もし神様にあえたとしても
    僕と君では
    ものの頼み方がわからない

秋刀魚のお腹に箸を押し当てる
豊かさは
いつでも圧力に屈してしまう

済んだ後に似た魚を前に
僕らは無能をやめて
勤勉になっていた

  僕も君も ずっと
  生きてきたわけではなかった

  今日か昨日の朝に
  生まれてきたばかりだった

  今日か昨日の朝だったのに
  なんと言われて生まれてきたのか
  もう思い出せないままだった

     視えない母に手を握られて
     幼い僕らは連れられていた

     視えない背中を追いかけて
     知らないところへ老いていく

ふたりは 悲しい音ではないのに
他に音ひとつ生まれなくて

僕らが勤勉になっていたのは
もう しばらくのことだった